Yanagisawa Wind Instruments

ヤナギサワ(柳澤管楽器)
JAPAN — Itabashi, Tokyo

概要Overview

ヤナギサワ(Yanagisawa Wind Instruments Co., Ltd.、柳澤管楽器株式会社)は、1894年に初代・柳澤徳太郎が東京・浅草で軍楽隊の輸入管楽器修理を手がけたことを起源とする、日本の管楽器専業メーカーである。復員した2代目・柳澤孝信が1951年にサクソフォン製作を志し、1954年に初のテナー「T-3(ティー・スリー)」を完成させた。このT-3の完成はセルマー・マークVIの発表と同年にあたり、孝信はセルマー、コーン、キングに匹敵する楽器を作ることを会社設立の動機として語っている。

1960年代後半からヴィトー(Vito)やルブラン傘下のマーティンブランド向けにOEM生産を行い、1978年の800(エリモナ)シリーズから自社名での輸出を開始。ヘンリー・セルマー・パリ、ヤマハと並ぶサクソフォンの世界三大メーカーの一角として、現在は板橋区小豆沢の工房でソプラニーノからバリトンまで全音域の楽器を手作業で製造している。生産規模は月産600〜650本ほどで、売上の約八割を欧米を中心とした海外が占める。

ヤナギサワ最大の技術的個性は素材へのこだわりにある。1972年に世界に先駆けてソリッドシルバー(純銀)製サックスを製作、1992年にはフォスファーブロンズ(リン青銅)製の生産を開始した。真鍮・ブロンズ・純銀を本体・ネック・ベル・ボウの組み合わせで変えることで、ほぼ同一の機構を持ちながら音色の異なる多彩なバリエーションが生まれる。ジャズの分野では本多俊之、谷中敦、ゲイリー・バーツらが愛用し、現行の「WOシリーズ」(2014年〜)でラインナップが統一された現在も、同社の職人気質は変わっていない。

特徴Features

  • 真鍮・フォスファーブロンズ・純銀の三素材による多彩なラインナップと音色の幅
  • 全工程手作業・少量多品種生産による高い品質の均一性と個体差の少なさ
  • プロフェッショナル(シングルポスト)とエリート(リブ付き構造)の二構造による明確な音色の差別化
  • ソプラニーノからバリトンまで全音域を自社製造する、世界でも希少な専業メーカー

モデルModels

T-3 / A-3 / S-6(初期モデル)

1954年完成のテナー「T-3」がヤナギサワ第1号機。1956年に初のアルト「A-3」、1968年に日本初のソプラノ「S-6」が続いた。バリトン「B-6」(Low A付き)の完成も1966年で、創業から十数年でほぼ全音域の生産体制が整った。T-3はセルマー・マークVIと同年の誕生で、孝信が「マークVIに対抗できる楽器」を志した原点にあたる。現存数は少なく、ヤナギサワ史の出発点として資料的価値が高い。

800シリーズ / Elimona(エリモナ)

1978年に発売された初の輸出向け自社ブランド機。「Elimona(エリモナ)」はElite Monarchの略で、A-800・T-800・B-800のアルト・テナー・バリトンが軸となった。テナーT-880は「より一貫したマークVI」と評されることもあるヴィンテージ寄りの音色で、現在もマークVI好きの奏者から中古での人気が高い。また同シリーズ期に日本初のカーブド・ソプラノを発表し、1985年には脱着式ネックを世界で初めて備えたストレート・ソプラノ「S-880」を発表した。

900シリーズ / プロフェッショナル(A-901 / T-901 / B-901)

1990年から導入されたプロフェッショナル・ラインの標準機。キーポストを管体に1本ずつ直接ハンダ付けするシングルポスト構造で、軽量かつ素早いレスポンスと明るめの音色が特徴。アルトA-901はヤマハYAS-62と直接競合するプロ入門機として世界中で大きく普及し、ヤナギサワの名を広く知らしめた。テナーT-901、バリトンB-901(Low A付き)も同構造で、バリトンはかつてVito VSP/Leblanc 7190BAとして米国でステンシル販売されていた。

990シリーズ / エリート(A-991 / A-992 / T-991 / T-992)

900シリーズの上位機種で、複数のポストをリブ(補強板)にまとめて管体に付けるリブ付き構造を採用する。これにより楽器の重量が増し、音に密度と深みが加わる。アンダースラング・オクターブ機構、Low B/Cのダブルアーム、C♯-B連結機構なども装備。991が真鍮、992がフォスファーブロンズで、T-992テナーは「過去30年で最も優れたテナーの一つ」と評された名機。A-991/992アルト、B-991バリトンも同様にエリートとしての高い評価を保っている。

シルバーソニック(Silver Sonic)シリーズ(A-9930 / T-9930 / SC-9937 ほか)

純銀(スターリングシルバー:銀92.5%+銅7.5%)を本体素材に用いたシリーズ。1972年の第1号機以来の伝統で、ヤナギサワを象徴するラインナップである。A-9930は銀ネック+銀本体、A-9937は全管純銀といった具合に、銀の使用範囲によって末尾の数字が変わり音色も変化する。真鍮・ブロンズより10〜15%ほど重くなるが、「ささやきから叫びまで生きているよう」と形容される豊かな共鳴と反応を持つ。2008年発表のカーブド・ソプラノSC-9937は全管純銀に手彫り装飾を施した最高級機で受注生産。

WOシリーズ / プロフェッショナル(AWO1 / AWO2 / TWO1 / TWO2)

2014年以降に900シリーズを置き換えた現行のプロフェッショナル・ライン。AWO1(ワイ・オー・ワン)が真鍮、AWO2がフォスファーブロンズで、旧901/902の機構的後継にあたる。シングルポスト構造で軽快な吹奏感と明るいサウンドを持つ。テナーのTWO1/TWO2も同様の思想で設計されている。現行ラインで最も入手しやすいエントリーポイントであり、ジャズから吹奏楽まで対応できる万能機として世界的に広く普及している。

WOシリーズ / エリート(AWO10〜AWO37 / TWO10〜TWO37)

現行の最上位ライン。リブ付き構造にアンダースラング・オクターブ機構やフルメタル・レゾネーターなどの装備が加わり、音に密度と深みをもたらす。末尾の数字が素材と銀の使用範囲を示し、AWO10が真鍮エリート、AWO20がブロンズ・エリート、AWO30が銀ネック+銀本体(真鍮ボウ・ベル)、AWO37が全管純銀の最上位となる。AWO32Jはリラ台座を省いたジャズ専用で、銀ネック+銀ベルに真鍮本体・ボウを組み合わせる。TWO20テナーはT992の正統後継で、多くのジャズ・プロが「セルマーの代替として真剣に検討できる初めての楽器」と語る。カーブド・ソプラノはSCWO10〜SCWO37、バリトンはBWO1〜BWO37で展開。

ソプラノ(S-901 / SC-901 / SWO系)

ヤナギサワのソプラノは1968年の「S-6」に始まる。特筆すべきは、アルト等と異なりS-901のような廉価プロ機でもリブ付き構造を採用している点で、ソプラノの音域が明るくなりやすい傾向を補う設計思想が貫かれている。1990年にはハイGキーを世界で初めて備えたS-990を発表。現行のSWO1(ストレート)、SCWO10〜SCWO37(カーブド)まで幅広く展開し、特にカーブド・ソプラノの品質はヤナギサワの代名詞的存在となっている。ハイGキー付き、デュアルネック(ストレート+カーブド両付き)などのオプション仕様も設定する。

ソプラニーノ(SN-981 / SN-901)

E♭調のソプラニーノも製造する。SN-981(日本ではSN-901)は901相当の作りを持つ真鍮製で、Low B♭からハイEまでカバーする。明瞭でクリスプな音色が特徴で、少量生産のレアモデルながら演奏家からの評価は高い。世界の主要サックスメーカーの中でソプラニーノを標準ラインに持つのはヤナギサワの他ほとんど存在せず、希少な全音域製造体制の象徴でもある。

シリアルナンバーSerial Numbers

ヤナギサワのシリアルは時期により法則が異なる。1970年代はシリアルの3〜4桁目が西暦下2桁を示す形式で、1980年代以降は年ごとに番号帯が移行する。下表は1980〜1993年の対応で、コミュニティ資料(Granlund Woodwindほか)に基づく。2000年代以降の信頼できる公開チャートは現時点では存在せず、正確な製造年確認は柳澤管楽器への直接問い合わせが最も確実である。

年代シリアル主な該当モデル
〜19793〜4桁目が西暦下2桁800(エリモナ)系
〜1980〜00102143800シリーズ
198100102144 – 00106981800シリーズ
198200106982 – 00111892800シリーズ
198300111893 – 00117142800シリーズ
198400117143 – 00122663800シリーズ
198500122664 – 00128485800シリーズ / S-880発売
198600128486 – 00134903800シリーズ
198700134904 – 00141658800シリーズ
198800141659 – 00148774800シリーズ
198900148775 – 00156006800 / 900シリーズ移行期
199000156007 – 00162968900シリーズ(901/991)開始
199100162969 – 00170073900シリーズ
199200170074 – 00177117900シリーズ / ブロンズ(902/992)開始
199300177118 – 00184310900シリーズ
1998〜2000約00219500 – 00234999900 / シルバーソニック系
2000年代以降公開チャートなし900系 → WOシリーズ(2014〜)