Strasser-Marigaux-Lemaire
概要Overview
SML(Strasser-Marigaux-Lemaire(ストラッセル・マリゴー・ルメール))は、1935年にフランス・パリで創業した管楽器メーカーである。社名は三人の創業者の頭文字に由来する。スイス出身の実業家シャルル・ストラッセル、ビュッフェ・クランポン出身の管楽器職人ジュール=アポラン・マリゴー、経営担当のルメールが共同で設立した。創業当初からパリ十九区のヴィレット大通り144番地に本社を構え、サックスとフルートを製造、ノルマンディーのラ・クチュール=ブッセーでオーボエとクラリネットを作る二拠点体制で出発した。
SMLはセルマー、ビュッフェ・クランポンに次ぐフランス管楽器業界の準メジャーとして独自の地位を築いたメーカーである。1953年にはオランダ・ハーグで開かれた国際楽器博覧会で金メダルを獲得し、これが代表モデル「Gold Medal」の名の由来となった。最大の技術的特徴はローリング・トーンホールの採用と、二十二項目に及ぶ独自の機械的工夫にある。サウンドはフランス管楽器の繊細さとアメリカン・ヴィンテージの太さを併せ持ち、セルマー・マークVIとコーン10Mの中間的な性格として語られることが多い。
1970年代に入るとセルマーやビュッフェの攻勢、年産四百本ほどの小規模工房の採算性悪化により事業は縮小、1982年にサックス生産から撤退した。米国向けには1968年からKing Musical Instrumentsとの提携で「King Marigaux」名のステンシル品が輸出され、1986年頃まで在庫が販売された。代表的な使用者はカーメン・レッジョで、1961年以来生涯にわたりGold Medalテナーを愛用した。現在「SML Paris」を名乗るメーカーは存在するが、algam傘下のアジア生産品であり、ヴィンテージSMLとは法的にも資本的にも別物である。
特徴Features
- ローリング・トーンホールと二十二項目の機械的工夫による独自の設計
- フランス管楽器の繊細さとアメリカン・ヴィンテージの太さを併せ持つ折衷的サウンド
- 大型のベルと深いベル彫刻、調整機構の充実
- 1953年ハーグ国際楽器博覧会での金メダル受賞という栄誉
モデルModels
Révision A(レヴィジオン A)
1938年に発表されたSML初の自社モデル。シリアル番号は0番から約4,500番までで、四千五百本以上が生産されたヒット作となった。アール・デコ調の六点星エングレーブ、当時としては大柄なキーワーク、テナーは左側ベルキーといった戦前フランス・サックスらしい意匠を備える。低音の太さは現代の基準でも特筆に値するが、左手小指テーブルなどエルゴノミクスは古い時代の設計である。
Coleman Hawkins Special(コールマン・ホーキンス・スペシャル)
1940年から1947年頃にかけて少数生産された希少モデル。Rev. AおよびBをベースに、ホーキンスの銘を彫刻、シルバープレート仕上げ、補強ネックや改良ピンキーテーブルなど特別仕様が施された。現存する個体は推定十本前後と言われる。SML公式の年表では1946年に「コールマン・ホーキンスがカスタム製SMLを演奏した」と記録されているが、ホーキンス自身の主要録音やライブ映像で確認できる愛器はセルマー・スーパー、バランスド・アクション、マークVIであり、SMLとの実際の関係は欧州ツアー期のエンドースメントの色合いが強い。
Révision B(レヴィジオン B)
1942年から1947年頃に製造された、Rev. Aの改良版。シリアルは約4,500番から7,000番までの範囲で、最大の変更点はテナーのベルキーが右側に移動したことだ。エングレーブは五点星に刷新され、戦前から戦中にかけてのアール・デコ的意匠が華麗さを増した。1944年のドイツ占領下では物資不足のため白蝶貝の代わりに黒いベークライト製のキーパールを備えた個体が少数作られ、戦時下フランス・サックスを見分ける手がかりとなっている。
Super 42〜49 / Model 49(スーパー、モデル49)
1942年から1949年にかけて生産された、Rev. BとRev. Cの過渡期にあたるモデル群。型番の数字は西暦末尾を表しており、Super 42、Super 43と毎年のように改称された。多くの個体がローリング・トーンホールを装備し、ベル彫刻のアール・デコ調がさらに洗練された姿を見せる。流通量はそれほど多くないが、収集家からは独自の歴史的価値が認められている。
Révision C(レヴィジオン C)
1949年から1951年にかけて作られた、現代的なキーワークに近づいた世代。シリアルは約7,300番から8,300番までの範囲。Rev. Dとほぼ同等の機構を備えながら、市場での評価がやや控えめなため、コストパフォーマンスに優れた一台として通の間で知られる。彫刻の意匠も刷新され、戦後復興期のフランス工芸らしい上品さを身につけた。
Révision D(レヴィジオン D)
1951年から1956年にかけて製造された、SML黄金期前半の代表作。シリアルは約8,300番から15,500番まで。ローリング・トーンホール、スイッチ式アーティキュレートG♯、多数の調整ネジ、四スロット式ネックロックといった独自機構を完成形まで磨き上げた。1953年のハーグ国際楽器博覧会で金メダルを獲得したのはこの世代の設計である。サウンドは「ダーク、複雑、リリカルなフレンチ」と評されると同時に、1930年代のコーンを思わせる太さを併せ持つ。アルトでさえテナーかと見まごう厚みを出すことができるホーンとして、現在も根強い人気を保つ。
Gold Medal Mk. I(ゴールド・メダル マークI)
1956年から1967年にかけて生産された、SML最高峰のモデル。シリアルは約15,500番から20,200番。1953年の金メダル獲得を記念して命名された。Rev. Dの正常進化形だが、ベルが大型化(テナーで約16.5cm)し、ボウとネックの寸法もRev. Dと互換性がない独自設計となった。ロッカーアーム式オクターブ機構、調整可能ベルキーフェルトなど、二十二項目の機械的工夫が最大限装備されている。カーメン・レッジョが1961年以来生涯愛用したテナーがこのモデルで、彼自身が「セルマーDのマウスピースとともに、ずっと同じ楽器を吹いてきた」と語っている。
Gold Medal Mk. II(ゴールド・メダル マークII)
1967年から1980年頃まで作られた後期型。シリアルは約20,200番から26,000番。最大の変更点はローリング・トーンホールの廃止で、これに伴い彫刻も簡素化された。Mk. Iの「神話的」な響きは薄れたとされるが、コア・サウンドは依然として大きく濃密で、1970年代のソウル、ファンク、フュージョンには素直に扱える楽器として実戦投入された。Mk. Iとの大幅な価格差により、SMLの音を試したい層にとっては現実的な選択肢となっている。
Standard(スタンダード)
1942年から1970年代まで、各世代と並行して生産されたセカンドライン。「前年モデルの再彫刻版」という性格を持ち、たとえばRev. Dシリアル帯の「Standard」刻印個体は機構的にRev. C仕様である場合が多い。彫刻は控えめにまとめられ、プロ機より一段下の位置づけだが、造りは堅実で当時の中堅プレイヤーから愛された。
King Marigaux(キング・マリゴー)
1968年から1986年頃まで、米国King Musical Instrumentsへの輸出向けに作られたステンシル・モデル。シリアルは本家と共通で約20,500番から27,000番台。実体はGold Medal Mk. IIに「King Marigaux」エングレーブを施した姉妹品で、機構は本家と同等である。後期にはアルティッシモF♯キーが付加された個体もあり、これはSML系列で唯一の高F♯仕様となる。「King」というアメリカ的ブランド名で割安に流通したため、SMLの音を求める層には今でも狙い目とされる。
各種ステンシル(Stencils)
SMLは1940年代から1970年代にかけて、他ブランド名義のステンシル品を多数製造した。Alliance、AW2、Primax、Progresse、Radiotone、The Duke、Alexandre、Reynolds Contempora、Jen Co Harmonia、Lucerne、Pichard、Vedette、Woodwind、Santy Runyonなど名義は多岐にわたる。多くは本家と同等の機構を持つが、外観や仕上げに差があるため、ローリング・トーンホールの有無、キーガード形状、五点星エングレーブ、八角形ピンキーテーブルなど複数の特徴を照合して判別する必要がある。
シリアルナンバーSerial Numbers
| 年代 | シリアル | 主な該当モデル |
|---|---|---|
| 1935 | 0 | Rev. A 開始(初期は無刻印あり) |
| 1936 | 650 | Rev. A |
| 1937 | 1,300 | Rev. A |
| 1938 | 1,950 | Rev. A 正式発表 |
| 1939 | 2,600 | Rev. A |
| 1940 | 3,250 | Coleman Hawkins Special 投入 |
| 1941 | 3,900 | Rev. A / Coleman Hawkins Special |
| 1942 | 4,500 | Rev. B / Super 42 / Standard 投入 |
| 1943 | 5,200 | Super 43 |
| 1944 | 5,400 | Super 44(黒キーパール個体あり) |
| 1945 | 5,500 | Super 45 |
| 1946 | 6,000 | Super 46 / Coleman Hawkins Special 終了 |
| 1947 | 6,700 | Super 47 / Rev. B 終了 |
| 1948 | 7,000 | Super |
| 1949 | 7,300 | Model 49 / Rev. C 投入 |
| 1950 | 8,000 | Rev. C |
| 1951 | 8,300 | Rev. D 投入 / Rev. C 終了 |
| 1952 | 9,600 | Rev. D |
| 1953 | 10,400 | Rev. D(ハーグ博覧会で金メダル獲得) |
| 1954 | 11,200 | Rev. D |
| 1955 | 12,000 | Rev. D |
| 1956 | 13,500 | Gold Medal Mk. I 投入 / Rev. D 段階的終了 |
| 1957 | 15,500 | Gold Medal Mk. I |
| 1958 | 16,000 | Gold Medal Mk. I |
| 1959 | 16,400 | Gold Medal Mk. I |
| 1960 | 16,800 | Gold Medal Mk. I |
| 1961 | 17,000 | Gold Medal Mk. I(カーメン・レッジョ入手) |
| 1962 | 17,650 | Gold Medal Mk. I |
| 1963 | 18,300 | Gold Medal Mk. I |
| 1964 | 18,950 | Gold Medal Mk. I |
| 1965 | 19,000 | Gold Medal Mk. I |
| 1966 | 19,500 | Gold Medal Mk. I |
| 1967 | 20,000 | Gold Medal Mk. I 終了 |
| 1968 | 20,200 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux 投入 |
| 1969 | 21,000 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux |
| 1970 | 21,500 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux |
| 1971 | 22,300 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux |
| 1972 | 22,700 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux |
| 1973 | 23,100 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux |
| 1974 | 23,500 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux |
| 1975 | 24,600 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux |
| 1976 | 24,800 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux |
| 1977 | 25,300 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux |
| 1978 | 25,600 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux |
| 1979 | 26,000 | Gold Medal Mk. II / King Marigaux |
| 1980 | 26,300 | Gold Medal Mk. II 終了 / King Marigaux 継続 |
| 1981 | 26,600 | SMLサックス生産終了(〜27,000番台) |
